俳句で作る物語⑩ 「なかとり餅」

「ママ!公園に餅つき屋さんが来てる!」
ある冬の日曜日、娘の桃果ももかが自宅の隣にある公園を二階の窓から眺めていた。
「お餅食べたい!ねー、行こうよー!」
せがむ桃果を連れて私は公園へ出かけた。

公園へ行くと、行列ができている。行列の先では男性と女性が餅をついて人々に配っている。私たちは行列の最後尾に並ぶ。
「お餅楽しみ!」
桃果はにこにこと嬉しそうだ。ふっくらとした頬は期待と興奮で赤くなっている。一人、二人と餅が次々に配られていく。ようやく私たちの順番が回ってきた。
「こんにちは、出張餅つき屋の望月もちづきです」
「もちづき……、桃果とおんなじ!」
桃果は同じ苗字の人を見つけて嬉しそうだ。女性が桃果に尋ねる。
「お嬢ちゃんも望月さん?」
「はい!望月桃果、五歳です!」
桃果が女性に元気よく挨拶をする。話を聞けば、どうやら二人は私の夫であるたくみの遠い親戚に当たるらしい。餅つき屋の望月力也りきやさんと妻の育美いくみさんが餅について説明してくれる。
「私たちがつく餅は”なかとり餅”といって、食べた人の仲を取り持ってくれるんですよ」
「仲を……?」
そんな餅が本当にあるのだろうか。桃果も首をかしげている。
「どういうことー?」
頭の上にハテナマークを浮かべる桃果に育美さんが説明する。
「このお餅を食べるとお友達と仲良くなれるんだよ」
「すごーい!食べたーい!」
桃果は瞳を輝かせてはしゃいでいる。
「でもすみません。さっきの方でお餅が無くなってしまったんです」
育美さんのその言葉を聞いて、桃果は眼に涙を浮かべる。まるでこの世の終わりでも来たかのような顔だ。
「ああっ、大丈夫だよ。またお餅はつくからね。少し待っててね」
育美さんがすかさず桃果をなだめる。まだ餅があると聞いて桃果はほっとした様子だ。
「よし、準備が終わったぞ。育美、いっちょやるか!」
餅つきの準備が終わり、力也さんと育美さんは息の合った動きで餅をつく。餅が伸びる様子を見て桃果の機嫌はすっかり良くなっていた。

「はい、熱いので気をつけてくださいね」
育美さんがなかとり餅を紙皿に載せて手渡してくれた。餅には砂糖醤油が塗られ、海苔が巻かれている。
「ありがとうございます」
「ありがとーございます!」
私たちは餅の皿を受け取った。私の皿には大きな餅が一つ、桃果の皿には小さな餅が二つ載っている。近くのベンチに腰掛けて、なかとり餅を食べ始める。
「よく噛んでゆっくり食べるのよ」
「いただきまーす!」
桃果はふうふうと息を吹きかけながら美味しそうに食べている。もぐもぐと食べる姿が愛らしい。
「お餅おいしいね!」
なかとり餅の美味しさに桃果は上機嫌だ。たしかに美味しい。砂糖醤油の香ばしさと餅がマッチしている。食べても普通の餅と何ら変わったところは無いようだが、本当に他人との仲を取り持ってくれるのだろうか。

私は餅を食べ終わって桃果とベンチで休んでいた。桃果はもう一つの餅を大事そうに見つめている。すると、一人の男の子が桃果のところにやってくる。桃果と同じくらいの年だろうか。そんなことを考えていると、次の瞬間。
むぎゅっ。
その男の子は桃果の頬を両手で挟んだ。
「こら、まもる!なんてことをするんだ!」
「桃果ちゃん、大丈夫!?」
餅つきの片づけを終えた望月さん夫婦が駆けつける。
「うん。でもびっくりしたよぉ」
守と呼ばれた男の子はしょんぼりした表情で駆けていき、離れたところのベンチに座る。
「待ってー」
桃果は食べていない餅の皿を持って男の子の後を追いかける。餅を落とさないよう慎重に歩いていく。

ベンチに腰掛ける桃果と守くんを私たちは目の届くところから見守る。うつむく守くんに桃果は自分の皿を差し出している。
「これあげる!」
桃果から皿を受け取り、守くんはなかとり餅を口に入れる。もぐもぐと口を動かしながら守くんが言う。
「うん、おいしい」
なかとり餅を食べて守くんは笑顔になる。良かった、喧嘩にならずに済みそうだ。私たちはベンチの近くへ行く。今度は守くんが桃果に話しかけている。
「さっきはごめんね。ほっぺが柔らかそうだったから、ぎゅってしちゃった。」
「大丈夫だよ。桃果のほっぺ、まん丸でもちもちしてるでしょー」
そう言って桃果は笑顔で自分の頬をなでる。ふっくらとした頬が手の動きに合わせて揺れ動く。守くんはそれを見て笑っている。
「桃果ったら……、外で”ほっぺもちもち”するのは止めてって言ってるのに……」
恥ずかしがる私に育美さんが微笑む。
「ふふふ。桃果ちゃん、可愛いですね」
「守のやつ、すっかり機嫌が良くなりましたよ。桃果ちゃんのおかげですね」
力也さんにそう言われ、私はなんだか恐れ多くなってしまった。
「いえいえ、なかとり餅のおかげですよ」

あとがき
小林一茶の俳句「餅搗もちつきが隣へ来たといふ子かな」に着想を得て、この物語を作りました。

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陽狩

陽狩(ようしゅ)と申します。俳句に関する記事などを書きます。俳句に少しでも興味を持ってもらえると嬉しいです。よろしくお願いします。

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