アナタの忘れ物は夢ですか? 5

 話をそらすように、次、どこ行く? と聞いてみると、画材、見てみたい、と相変わらずな答えが返ってきた。ここら辺、画材店ないから、文具屋ね、とため息混じりに返す。

「君は、今ハマってるのとかあるの?」

 文具屋に向かっている途中、幸が突然そんなことを聞いてきた。あー、ゲームとか、ゲーム実況とか? と返すと、ゲーム作ったり、実況撮ってみたりは? とまた突っ込まれた。

「気にはなるけど、やる気はないかな」

 えぇ、なんで? と驚く幸に、もう、と言葉を切る。

「もう好きなものを嫌いになるのが嫌だから」

 好きなことを仕事にするのは、嫌いになりに行くようなもんだから、となるべく幸から目を逸らす。そんなことないんじゃない? と言ってくる幸に、そんなことあるんだよ、とだけ返してため息をついた。そうこう言っているうちに文具屋にたどり着いたようだ。

「じゃあ画材でも見に行くか、つっても文具屋だから、大した数はないけど」

 メインであろう文房具売り場を通り過ぎ、画材が売っている一角へとやってくる。相変わらず幸は目をキラキラと輝かせて、紙やら絵の具やらをしげしげと眺めていた。

「見るだけだからな」

 そうくぎを刺すと幸は口をとがらせる、見たい、って言ったから連れて来たんだ、と念を押すと渋々と言った風に頷いている。にしても、文具屋とはいえ、画材まで売ってるんだからすごいよ。俺みたいなライト層なら、大概の画材は文具屋でも揃うし、学校で使ってるような絵の具くらいならこういうところでも買える。

「色々あるんだね、なんかさ、見てるだけでワクワクしない?」

 まぁ画材だけを揃える人もいるらしいし、それについては同意できるかな、楽しげにしている幸の目を見て、まぁな、とだけ短く返す。絵が上手い奴らならきっと紙と鉛筆だけで傑作を生みだすんだろうが、多少絵が描ける程度の俺みたいなやつは、画材やデバイスに頼らなきゃそれなりの作品すら作れない、まぁ自分にとっての傑作が他人にとっての傑作か、というとまるで違ったりするけど。ホント人の好き嫌いなんかに合わせてられんわ。

「私も描いてみたいな」

 なんてまた思考の沼にはまっていると、ぽつりと幸がそんなことを呟いた。いいんじゃないか、と返せば、期待に満ちた目で俺を見つめてくる。

「人がやるのは否定しないさ、好きに描いてみりゃいい、俺は何のアドバイスもしないけど」

 というか人にどうこう言えるほど上手くない、そりゃまるで描いてこなかったって奴らに比べれば多少うまいだろうが、そう言う奴らだって直ぐ俺を越していく。結局努力の天才やらには敵わない、あととことん絵が好きな奴とかな。

「俺のお古でいいなら、まだ使えるのがいくらかあったと思う」

 ホントに買ってはくれないんだ、と肩を落とす幸の頭をポンとたたいた。じゃ、そろそろ帰るぞ、と声をかけて文具屋から出ていく。さんさんと降り注ぐ夏の日が痛い、早く帰らなきゃバテそうだ。幸がついてきているのを確認してから、少し速足で帰路を歩いて行った。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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