アナタの忘れ物は夢ですか? 13

 ショッピングモールから出て、思っていたよりは多少軽い荷物を持ち、黙り込んだままとぼとぼと帰路につく、改札を抜けて、電車に乗り込むと、はぁと安堵の息をついた。

「あんな所で泣くなよ、子供じゃないんだし」

 幸は赤くなった目をこすりながら、ごめん、と小さく呟いた。たぶん幸の言っていたことは、俺が心のどこかで思っていたことなんだろう。あんなに頑張ってきた、人並みか、人並みより少し上くらいには、ひたむきに頑張ってきたつもりだった。あんなに描いてきた、そうだ、飽き性の俺にしては、長く続けられた趣味の一つだし、一つ一つ丹精込めて描いてきたつもりだ。でも、報われなかった。どれだけ描いたって、どれだけ頑張ったって、もがいてあがいたって、上手いやつには敵わなかった。賞だってそんなに取れてない。

「悔しい、悔しいよ、私」

 あの後輩は、アイツは、絵を描き始めてまだ数か月とか言ってたっけ。元々のセンスや才能って奴だろう、長年描いてきた俺よりずっと上手くて、ずっと人に認められてた。性格もいいし顔だって悪くない、聞けば運動神経もいいらしい、俺よりは成績悪かったらしいけど。でもそれだけ。俺なんかよりずっと、ずっと色々持ってた。

 俺より年下の奴が、俺より絵が上手いのが、耐えられなかった。同じ部員同士だからいやでも比べられて、アイツが受賞するたびに、俺は参加賞みたいな、子供のよくできました、にすら劣る賞ばかり貰って、そりゃ教師の言う通りに描いたら、参加賞より少し上くらいは貰えたけど、でも結局それは教師の考えた絵であって、俺なんかどこにもいなくて。

「だから、もう絵は描きたくないんだよ」

 今にも泣きそうな幸の目を見ずぽつりと呟いた、行きと違って帰りはお互い黙り込んだまま、ただ目的地に着くのを待ち続けるだけだった。あれだけ楽しみだった映画も、休みのどこか清々しい気分も吹き飛んで、どんよりとした気分になる。

「君が描かないなら、私が描き続ける。それが君の為にも、私の為にもなるから」

 はっきりと力強く幸が呟いた、俺は曖昧に首を縦に振ると、乗客越しに見える景色を眺める。どこまでものどかな風景が、次第に見慣れた風景へと変わっていく。車内アナウンスが流れ椅子から立ち上がると、幸の荷物を片方持ってドアの前に立つ。

「相変わらず、暑いな」

 日は落ちてきたというのに、まだうだるような暑さが続いている。うんざりしながら家までの道を歩いていく、幸も俺も何も話さない、町の喧騒と二人分の足音がやけに響く。絵を描いたのも、絵をやめたのも、結局は俺自身の問題だ。

「なぁ、お前自身はどうしたいんだ?」

 長い沈黙に耐え切れず思わずそんな言葉が口からもれる、突然どうしたの? と不思議そうな顔で俺を見てくる幸に、いや、ほらさ、いつも俺の事ばかりで聞いたことなかったから、となるべく幸の方を見ずに返した。

「私のやりたいこと、か。色々ありすぎるんだよね、こうしたいな、あぁなればいいな、が沢山あって一つだけっていうのは難しいかも」

 目標や夢が沢山あるのはいいことだと思う、幸の予想通りの答えに俺はどこかホッとしていた。自分の中にあった小さな希望が、もしかしたらこの代わり映えしない生活も、どこにも進めないという焦燥感も、変えてくれるんじゃないか、そう期待してしまう。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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